2018年12月04日
社会・生活
研究員
亀田 裕子
「それ、ぼく食べられる?ピーナッツ入ってないよね?」―。先日、祖母の家でクッキーが目の前に出されるや否や、長男が発した言葉である。筆者が「大丈夫。ちゃんとチェックしたから、食べられるよ」と教えると、彼はホッとした表情になり、笑みを浮かべて手を伸ばした。ピーナッツ(落花生)アレルギーなのである。
長男は7歳の時に突然、ピーナッツ・アレルギーを発症した。その日、「おやつを食べた後に外で遊んで戻ると、顔が赤くなり体温も高いようだ」―。学童保育(以下「学童」)から、そのような電話が掛かってきた。風邪でも引いたのかと思い、迎えに行った。だが、長男の顔を一目見て嫌な予感に襲われる。顔が赤い、というより腫れていたからだ。家に帰って服の袖をめくると、じんましんのような斑点が出ている。しかも全身に...
すぐに学童に電話し、長男がどのように過ごしていたかを尋ねたが、特段変わった様子はなかった。最後に「おやつは何を食べましたか?」と聞いても、返ってきた答えはこれまで何ら問題のなかったお菓子ばかり。ただ、最後の一つがちょっと気になった。ピーナッツ・チョコレートである。
ピーナッツによってアレルギーを発症する子どもがいることを知っていたが、長男はそれまで特段問題なかった。この日は皿に出された状態で、ある程度の量を食べたらしい。食べた物をメモして小児科に連れて行くと...。血液検査の結果、やはりピーナッツに対してかなり高いアレルギー数値が出ている。アレルギー専門医の診察を勧められた。
後日、専門医の診察でもピーナッツに対するアレルギー反応が認められた。以来、長男の食生活からピーナッツは姿を消すことになる。万一誤食した場合に備えるため、長男が常に携帯する薬も処方された。原因と対処法が分かってひと安心し、長男の異変に気づいて迅速に対応してくれた学童に心から感謝した。
実は、長男の食物アレルギーはこれが初めてではなかった。9カ月の時、オムレツを食べさせると、みるみる顔が赤く腫れあがり、じんましんが出たため、あわてて小児科に連れて行った。その後、彼の食生活は鶏卵抜きになった。
鶏卵はパンやパスタ、スナック菓子など、普段の食卓に氾濫している。このため、買い物では食品表示のチェックが欠かせず、外食もできなくなった。保育園の給食では担任の先生や栄養士さんの立ち合いの下、筆者が1カ月分の献立を確認し、除去もしくは代替食を持参。そのような生活が2年間続いた。
3歳になる頃、専門医から寛解(かんかい=深刻なアレルギー症状が出なくなること)と診断され、晴れて長男は鶏卵を食べられるようになった。小躍りしながら、生まれて初めてのバースデイケーキを口にすると...。その笑顔を見て、心底ホッとした。
アレルギーを引き起こすリスクの高い食物は、鶏卵、牛乳、小麦、ピーナッツ―といった順番になると指摘される。食品表示を見ると、菓子類に使われているものが多い。食品自体に含まれなくても、「本品製造工場では落花生を含む製品を生産しています」という表示も少なくない。
鶏卵アレルギーを発症していた時、長男はまだ乳幼児だったから、周囲が食べ物を制御できた。だが、ピーナッツ・アレルギーと診断された今、小学生になった彼の行動範囲は格段に広がり、そのすべてに親の目が行き届くわけではない。スポーツ合宿や夏期学校など、外泊行事は特に心配になる。
「自分には食物アレルギーがある」「それを食べるとアレルギー症状が出る」という現実を、長男自身が冷静かつ正確に受け止める必要がある。また、万一誤食してアレルギー反応が出たとしても、本人がまずは落ち着いて常時携帯している薬を取り出し、飲まなくてはならない。もちろん、学校や学童といった周囲に理解・協力してもらい、情報共有をしておくことが大切になる。
先進国では食物アレルギーが深刻になっている。日本も例外ではない。文部科学省が全国の公立小・中・高・中等教育学校を対象にした「学校生活における健康管理に関する調査」の結果によると、2007年では食物アレルギーを持つ生徒が全体の2.6%だったのに対し、2013年には4.5%まで増えている。
食物アレルギーは、工業化・文明化に伴う生活環境の著しい変化がもたらす「現代病」と指摘される。しかも寛解しない限り、一生付き合っていくことになる。「飽食」の時代につらいことだが、体質と割り切って受け容れるしかない。この先、深刻なアクシデントが起きなければよいが...。と考える傍らで、長男がクッキーを美味しそうにほお張っている。
亀田 裕子